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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)2110号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人牛島定の上告趣意第一点について。

本件起訴状記載の第二の一の公訴事実と第一審判決判示二の事実とは、所論のようにその依頼事項の内容につき多少の相違、追加はあるが、この程度の相違、追加は、本件賄賂罪としての事実の同一性を害するものではなく、また、事実審が訴因変更の手続を執ることなくかかる事実を追加認定したからとて、被告人の防御権を侵害したものとも認められない。そして、かかる場合に訴因変更の手続を必要としないと解すべきことは当裁判所の屡々判示したところである。それ故、原判示は正当であり、また、引用の判例ともその趣旨を異にするものではない。論旨は採るを得ない。

同第二点について。

論旨は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、当該事件のみに対するものであること明らかであって、本件に適切でない。されば、所論はその前提を欠き、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人山崎佐の上告趣意について。

原審の是認した第一審判決の適用した本件犯行当時施行されていた自転車競技法(昭和二七年法律二二〇号に依る改正前のもの)一七条は、賄賂を「支払い」、「提供し」、又は「約束した」ものを処罰しているのであり、右にいわゆる「提供」とは、所論のごとく物品の現実な提供のみを指称するものではなく、昭和一六年法律六一号に依る改正前の刑法一九八条にいわゆる賄賂の提供と同じく、口頭をもって相手方に対し賄賂(前記競技法一条の)の収受を促す意思を表示する場合、すなわち、現行刑法一九八条にいわゆる「其申込」をも包含するものと解するを相当とする。されば、原判決の説示は正当であって、所論引用の大審院の判決例の趣旨に合致し、毫もその趣旨に反しない。論旨は、採るを得ない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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